すみっコ仕事人インタビュー 第4回 映画

第4回


映画

大森貴弘さん 吉田玲子さん

すみっコぐらしに関わる仕事を掘り下げる「すみっコ仕事人」は4回目となりました。

これまで紹介してきたのは、すみっコぐらしに関わっている、いわゆる会社員でした。今回は少し趣を変えて、独立して仕事をしている人々に語ってもらいます。

取材に応じてくれたのは、11月5日の公開が決まっている「映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ」の監督と脚本家。
どのような人生を経て今の仕事に至ったのかに加え、今回の映画の見どころや制作の裏側についても聞いてきました。

すみっコ仕事人インタビュー 第4回 映画

華々しい経歴を持つ2人ですが、若い時には色々と迷走していた様子もうかがえて、私の生きる上での励みともなりました。
(すみっコぐらし学園認定記者・朝日新聞社 影山遼) 影山遼 自己紹介

――インタビューに対応してくれた2人を紹介します。


・監督=大森貴弘さん:1984年にアニメ制作会社「スタジオディーン」に入社。フリーのアニメーター、実写映像のディレクターを経て、96年に「赤ちゃんと僕」で監督としてデビュー。
主な作品に「地獄少女」「夏目友人帳」「デュラララ!!」「海月姫」 がある。


・脚本=吉田玲子さん:1993年にデビュー後、アニメーション作品を中心に活動。
主な作品に「猫の恩返し」(2002年)、「映画けいおん!」(11年)、「聲の形」(16年)、「若おかみは小学生!」(18年)、「劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン」(20年)がある。

――最初に、2人のすみっコぐらしとの関わりを教えてください。

大森貴弘さん(以下、大森):前作(映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ)がヒットしているという認識はあって、(すみっコが)いることは知っていましたが、中身に関してはほぼ知らなかったです。
映画を批評するサイトでも大人の評判が良くて、どんなものだろうとは思っていたんですよね。

今作の監督の話をもらってから、(原作者の)よこみぞゆりさんの本を2冊読み、ひねった設定で面白いなと思いながら始めました。

吉田玲子さん(以下、吉田):アプリのゲームで知っていました。前作も(東京の)板橋のイオンシネマで見たのですが、満員でした。
しかも、親子連れからカップルのような人までいて、幅広い客層だなと。カップルの男の子の方は、見終わって号泣していました。
ということもあり、細かいところまでではないですけれど、キャラクターの特徴は知っていました。

――映画の話をもらった時の率直な感想はいかがでしたか。

大森:僕にこの話を振ってくるって何を考えているんだろうって、最初は思いました 笑

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このぐらいの頭身のキャラクターで、ファンタジー的なものは今までに経験がなく、3Dアニメーションというのも初めてだったので、できるのかなっていう緊張はありました。

お話をいただいたのは2020年春ごろで、5月ごろに最初に吉田さんにお会いしました。
その後は、だいたい2週間おきに対面でお会いして物語を固めていきました。
今、思い返せば、最初は意外とのんびりやっていたような……。その後の自分の作業もだいぶ引っ張ってしまったのですけど。

吉田:私がお話をいただいた時には、大森監督が担当されると決まっていたので、「夏目友人帳か、そうか、それはいいファンタジーになりそう」と思って、納得していました。

――映画の具体的な内容に触れる前に、「すみっコ仕事人」に関する質問を先に。
2人はなぜ今、監督や脚本家になっているのでしょうか。やはり、小さい時から「絶対になりたい」という強い思いがあったのでしょうか。

大森:子どもの時から絵を描くのが好きでした。
中学生ぐらいの時に、トーベ・ヤンソンの「ムーミンシリーズ」の原作に触れたのが、自分の中で大きなターニングポイントとなりました。
哲学的な示唆に富んだ物語にものすごくひかれ、子ども向けでも深みのあることができるのが素晴らしいなと思いました。

そこからアニメーションの道に入り、20代前半はずっとアニメーターとしてやっていました。
ただ、映画も好きで演出志望でもあったので、描くことよりも作品の組み立てをやりたいという気持ちが大きくて。
その時に、アニメーションだと構築に時間がかかり、自分に合わないんじゃないかと思うようになってしまいました。

まあ、20代は迷走していた時期なんです。一度、実写の方に足を踏み入れたこともありました。
その後、請われてアニメーションの仕事に戻り、アニメーター時代からお世話になってたプロデューサーに監督の仕事をいただきました。

どちらかというと、20代の頃はもっと引っ込み思案で、ファミレスでもすみっこにしか座らないタイプ。
ほんとにすみっコぐらしな生活でした。普段は人ともあまり話をしなかったので、今こうやってぺらぺらしゃべっているのが、自分でも不思議です 笑

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吉田:子どもの頃から本も漫画も映画もアニメも好きでした。
ずっとフィクション、物語の世界が好きだったんですけれど、大学生になってからは、周りが現実的に就職活動する中、夢ばっかり見てちゃいけないんじゃないかと、「現実に戻ろうキャンペーン」をしました。

普通に就職したんですが、合わなくって、結局またフィクションの世界に戻ってきちゃったという感じですかね。
それで、シナリオの学校に通い始めて、コンクールに応募して、今に至るという。

私も20代の頃はちょっと落ち込んでいました。漫画や映画やアニメばかり見ていて、英語ができるわけでもないし、字がきれいとか、数字に強いとか、そういう部分が何もなく、現実で生きることが何一つできないなと思って。

大森:あちこちぶつかりながら20代を終えて、30代になって、自分なりにやりたい仕事にやっと踏み込んでいった時に、20代の出来事って全部無駄じゃなかったなと僕は感じました。
迷って、恥かいて、というのがなければ得られなかったこともあると思います。

そういう意味だと、その頃に漠然と自分のやりたいこと、こうあったら良いなということだけは忘れなかったことが、今回の作品の監督をできたということにも、結果的につながっているなという風に思っていますね。

最近は、すみにいたいと思うことは少なくなりましたけど、割とすみの方が落ち着きます。仕事場に借りている場所でも、すみの方に配置させてもらっていますし。

――これから仕事を選ぼうとしている人には、ご自身の仕事のどういう点をおすすめしたいですか。

大森:おすすめはできないかもしれないな 笑

吉田さんのお話を聞いていて気づいたことがあって、私も「ちゃんとしなきゃいけない病」のようなものがありました。
そこで紆余曲折はありましたが、でも自分の中で持っている「やりたい」という心の声にはあらがえず、たどり着いたのが今の道だと思います。

今回の映画もそういったところを、結果的には表現できたところもあります。
「夢」という言葉で映画では語っていますけど、心の中にある大事なものに向けて生きていけば何も無駄になることはないんじゃないかと思うんですよね。

結果として何になれているかというのは別問題で、そこに自分が思い描いていた何かがあるかを見つけることの方が大事な気がしています。

吉田:私もおすすめしないですね 笑

私はむしろ、技術を積み重ねていく仕事に憧れがあります。毎回違う作品をやっていて、前は面白いのが書けたかもしれないけれど、次書けるかどうかは分からない。
毎回違う作品だし、違うキャラクターだし、という繰り返しの中でやっているので、苦しい時があります。
積み重ねていけるものでもなく、なかなかつらい。だから、みんなタフにってことです。
心のタフさで色々と乗り越えていかなければならないんじゃないでしょうか。

――2人も悩んでこられたのですね……。意外でした。その頃を振り返って得た教訓はありますか。

大森:迷っても良いんだよということですかね。迷っても良い、ぶつかっても良いんだよと。
今回の映画にも、今この瞬間に夢がかなわなくても良いじゃない、といったことは込められたかなとは思っています。

吉田:私は、大人がこんなに悩むものだとは思っていなかったですね。
子どもの頃は。大人になれば色んなことが解決しているだろうと思っていました 笑

――現実の話が面白く、長引いてしまいましたが、ここから映画の話に戻ります。
2人の話でも出てきた「夢」をテーマにしようというのは、どうやって決まりましたか。

大森:サンエックスのみなさんと案を出し合った時に、「夢」というキーワードを複数の方からいただきました。
ただ、すみっコたちは夢をかなえちゃったらすみっコじゃなくなっちゃうよねというのがあり、テーマにするのが難しいかなと、一回却下しました。

けれど、よく考えてみたら、みなさんの口から出てくるということは、すみっコたちにとっての夢というものの存在がとても大きいということですから、ちゃんとテーマになるんじゃないかなと。
かなわなくても、夢を持っているだけで物語になるのではと感じました。

吉田:かなわない何かを持っているのを含めてすみっコなんだよという、「すみっコとはなんぞや」というところに帰結すると思っています。

大森:他には、最初の頃の会議で提案のあったナイトパーティーと、吉田さんが考えていく中で出てきた魔法使いといったいくつかの要素がバラバラとあって、その中に夢という根幹の部分があって、組み合わせながら吉田さんに脚本を作ってもらい、みんなで練っていったという形です。

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――サンエックスのみなさんは熱意がすごいので、大変な部分はありましたか……?

大森:アイデアをいっぱいいただきました。向いていた方向はみなさん一緒で、全員で進めているという感じでしたね。
ただ、その中でキャラクターの制限はいくつかあって、それに対して「こういう見せ方だったらそこの設定を守れますかね」と、こちらから代案を出しながら進めていく作業は、ある意味大変でしたけれど、楽しさもありました。

――オープニングで、新しいキャラクターの「わん」「つー」「すりー」「ふぉー」「ふぁいぶ」が登場してくる場面など、これまでのすみっコぐらしとはまた違ったエンターテインメント性がありました。
こだわりを教えていただけますか。

大森:映画っぽい華やかさを最初にどーんと見せたいというイメージが、吉田さんの脚本から感じられまして。
冒頭で魔法の世界と新しいキャラクターが出てくるという場面で、なるべく映画っぽくしようっていう気持ちがありました。

だから、往年のSF映画、「スター・ウォーズ」や「2001年宇宙の旅」といった、この作品とはミスマッチな感じをあえて狙いました。
そういうシリアスでリアルな絵作りというのが、新しい場所、新キャラクターの紹介と言う役割では、可愛い絵とも逆にマッチする面白さがあると思ったので。

ちなみに、吉田さんの最初の案で「わん」「つー」「すりー」「ふぉー」「ふぁいぶ」という名前が出てきました。
その時は名前に(仮)って書いてあったんですけれど、その場で「このままでかわいいからこれでいこうよ」と満場一致でなりました。

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――作る上で苦労した部分はどこでしたか。

大森:前作と同じ約60分ということは決まっていて。テレビシリーズ3本分くらいだという長さの感覚はありましたが、全然尺感が読めませんでした 笑

セリフもないし、キャラクターの動きもあまり細かい事は出来ないし。結局やりながら考えようと、大体テレビや短編映画ならこれくらいでおさまるはずだなと考えた長さで、吉田さんに書いてもらいました。

僕が普段、人物のセリフからキャラクターの動きを発想して絵コンテを書いているのだというのを、今回で痛感しました。どういうため方でしゃべって、その時にこんな顔をして、といったことですが、かなりセリフに依存していたな、と。作業を進めるうちに、すみっコたち自身の表情や、集まったり離れたりするだけでも、結構、物語になるということに気づいて、この子たちの振る舞いでどう見えるかなと考えながらやっていきました。

吉田:キャラクターがしゃべらないというのは普通のアニメーションではあまりないので……。
ただ、前作がうまくナレーションを使っていて、素敵な世界を作っておられたので、指針になりましたね。絵本を描くようで楽しかったです。

――今回、映画を見に行くと手に入るカラーの小冊子があるといううわさも聞きました。作るのは苦労しましたか。

吉田:コンパクトな冊子で、そのサイズでできるショートストーリーというのはちょっと悩みました。
でもよこみぞさんに「そういえば、私以外の人にこういう絵本みたいなの描いてもらうの初めてだ」と言われて、そうなんだ!と。
楽しみにしてくれていたようです。

――推しキャラクターはできましたか。

大森:最初とんかつがちょっと苦手だったんですよ。フォルムがそんなにかわいくないと思って。
ただ、食べてもらいたいという夢に対して、けなげな感じが好きになっちゃいましたね。えびふらいのしっぽと仲良くしているところも。

吉田:やっぱりとかげとふぁいぶの気持ちに寄り添って書いてきたので、この映画の中では一番応援しています。

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大森:ふぁいぶは僕らの20代前半とかぶるかもしれませんね。なんとかうまくやりたいと思って、ぶつかりまくって失敗しまくっているんだけれど、それでも頑張ろうとしている。

他の魔法使いたちを見て、そうしなきゃいけないんだという感じで振る舞っているうちって、なかなかうまくいかないというか。やっていることは変わらないのかもしれないけれど、ふと、失敗しても良いんだよっていう風に割り切って、いつかは自分が思い描いた自分になりたいと思ったら、それ自体が素敵だなって思うんですよね。

――みんな色々と悩んで迷って、今があるんですね。映画の中で何度も触れられる「夢」について私もいま一度考え直したいなと思います。

今回のインタビュー、人生に迷走している私自身も考えるきっかけになりました。同席していた全員で一番盛り上がった場面が、この悩みをみんなで共有する場面でした。「すみっコ仕事人」は大丈夫なのでしょうか……笑

読んでくれている大人も子どもも、みんなで悩みながら、すみっこですみっコたちを思い出しながら楽しくタフにやっていきましょう。

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